借金地獄をくぐり抜けた先にあったものは

今は50歳になり、落ち着いた生活を過ごしていますが、30年前の20代は地獄の日々でした。

大学2年・20歳のときに借金二千万円を背負いました。
私が借りたのではなく、叔父が借りた借金の連帯保証人であったからです。

叔父は飲食店を営んでいて、経営は順調で、私も叔父の店でアルバイトさせてもらいました。
ある日、「頼みがある」と言われ、叔父のところに行くと一枚の紙にサインするように頼まれました。
「お前がサインしてくれたら、店が助かるから頼む」と言われ、私も叔父に世話になった手前断れず、サインしました。

それから半年後、金融機関の方が私の元に訪れ、こう切り出します。
「〇〇様(叔父のこと)が返済不能になったので、あなたに請求することになりました」
私は訳がわからず叔父に連絡しますが、叔父の携帯は不通です。後で知ったことですが、店が倒産し、叔父一家は夜逃げしたそうです。
そして、私があのときサインしたのは「連帯保証人」で、叔父が返せない場合は私が返済する義務を負う契約でした。

私が借金を背負ったことは周囲に知れ渡りました。
両親にも知られ、私は彼らから縁を切られます
付き合っていた彼女からも別れを告げられます。
周りの知人・友人は誰も声をかけてくれなくなりました。
大学の学費も払えなくなり、退学処分になりました。

借金を背負った以上、まずは現状把握にかかりました。
現在のところ元金と利息がいくらあるか? 私が働いた場合に返せる金額と期間はどのくらいかかるか? 
これを知って、目の前が暗くなり、倒れそうになったことは今でも覚えています。
手元にあるのは、アパートの契約書と数ヶ月分の生活費のみです。
家賃が払えなくなれば、追い出され住所を失います。
そうなるとホームレス状態になるので、なんとしても避けたいと思いました。

次にしたことは金融機関との交渉です。
大学生の私に資産も知恵もありません。とにかく責任者に会って返済交渉をすることだけを考えて事務所に乗り込みました。
そこは闇金ではなく真っ当な金融機関なので、脅されることはありません。担当者も真摯に対応してくれました。
相手側も連帯保証人が大学生だったことに驚き同情されましたが、借金の話になると人情は持ち込みません。
ドラマのようにゼロにするなんて、絶対あり得ないのです。
1回目の交渉はうまくいかなくても、何度も交渉を重ねるとなんとなくコツがつかめてきます。
相手の利益を考えながら、こちらの利益にもなるように妥協点を作るのが交渉だとわかりました。
そして交渉を重ねること10回以上、こちらが可能な範囲で返済できる金額に落ち着きました。

最後にしたことは、仕事です。
最初は複数のアルバイトをこなすことから始めました。
朝は新聞配達、日中は近所の工場で働き、夜はパチンコ屋の清掃作業です。
しばらくは返済に困ることはありませんが、いつまでもできるとは思わなくなりました。
この調子でいけば返済が終わるのは40歳を越えています。そのとき体はどれだけボロボロになっているでしょう?
想像したら怖くなり、思わず布団をかぶって咽び泣きました。

もっと稼げる職を探そうとスポーツ紙を見ていたら、風俗店の求人募集が目に飛び込みます。
「男性従業員月収50万以上、寮あり」
この募集を見てすぐに電話をかけると、即採用されました。

風俗店に勤めて良かったのは、掛け持ちする必要がないので移動の手間も省けたこと、寮に住めたのでアパート代が浮いたこと、遊ぶ暇もないくらいに店で働けたことです。
私の後で何人もの人が採用されましたが全員すぐにやめていくので、私は店から信用され、さまざまな仕事を任されました。
また、そこで知り合った女性従業員とも恋仲になり、彼女も私の返済を若干助けてくれました。
数年して返済期間と返済額はどんどん減ってきたとき、体に異変がおきました。
あまりの過労に体が悲鳴を上げて、胃が病気に犯されていたのです。

病気から回復しても借金は残ったままでしたが、体が思うように動かず働けません。
でも救う神が現れました。
風俗店に勤めていたときのオーナーから、新しい店を立ち上げるので来ないかと言われたのです。
私は風俗は無理と断りましたが、店は料理店で風俗より忙しくないと言います。
彼女にその話をすると、「ぜひ乗るべきよ」と言って背中を押します。
私はオーナーの提案に乗って、料理店の雇われ店長になりました。
後で知ったのですが、オーナーが私のために料理店を計画し、彼女もオーナーの意向を知って背中を押したそうです。
私は2人の恩に応え働き始めると、支店が増え収入が上がり、予定より早く返済を終えることができました。

返済を終了して32歳になった私はオーナーに店を任せ、独立して小さな料理店を始めました。
最初は1人で始めましたが、従業員を入れようと募集して来たのは彼女でした。
以降2人で楽しく店で切り盛りしています。借金なしで。